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イ・ビョンチャンによるワークショップ「呼吸するビニール彫刻」を開催

開催日時  2022 年 10 月 9 日(日) 13:30-15:30 会場:アートカフェ 講師:イ・ビョンチャン 参加者:児童と保護者18人 第Ⅰ期レジデンス・アーティスト、イ・ビョンチャン(韓国)がワークショップを行いました。 参加者は、イ・ビョンチャンの展示作品《生物》をアーティストと一緒に鑑賞し、作品についての説明やビニール素材を使ってどのように作品が作られていったのかなどについて、デモンストレーションを見ながら話を聞きました。その後、 2 つのグループに分かれてビニールの彫刻作品を共同制作しました。 扇風機に取り付けた直径 2m 、長さ 8m のビニールに空気が送り込まれると、参加者は、その大きさに圧倒されながらも、オブジェにはさみで穴をあけ、そこにデザインを施したビニールの立体作品を継ぎ足していきました。 そうして、皆で「都市に棲むもうひとつの生き物」を完成させました。 イ・ビョンチャン | 福岡アジア美術館 (fukuoka.lg.jp)

ワークショップ「誰でもかんたんリトグラフ!」を開催

 現在開催中の展覧会「ヒンドゥーの神々の物語」の関連イベントとして、リトグラフのワークショップを開催しました。 リトグラフは19世紀にヨーロッパで確立された印刷術で、インドでは20世紀に入ると各地に印刷所が作られ、ラジャ・ラヴィ・ヴァルマーらに代表される作者の手による神様のイメージが全土にもたらされるようになりました。 今回のワークショップでは、リトグラフの複雑な工程をごくシンプルな形で体験しました。     講師は荒木さち子さん。2018年に開催した「闇に刻む光 アジアの木版画運動  1930sー2010s」展でもワークショップをして頂きました。       まずは、版画用の特殊な紙に色鉛筆で思い思いに下絵(版下)を制作。 版ができたら、水と油の反発を利用してインクを載せていきます。       インクを載せた版に紙をあてたら、バレンや足でふみふみして、              イメージを定着させます。             最後に、版をそっとはずしてできあがり。                                       参加者の作品(1月30日・3月12日)

「ヒンドゥーの神々の物語」展によせて2   本当はおそろしい『ラーマーヤナ』

  1 『ラーマーヤナ』の物語 3 月 29 日まで開催中の「 ヒンドゥーの神々の物語 」展にかこつけて 『マハーバーラタ』について 2回にわたってぐだぐだ書きましたが、同展もあと1か月ほどになりましたので、『マハーバーラタ』と並ぶインドの大叙事詩『ラーマーヤナ』についてもぐだぐだ書かなければなりません。なぜ「書かなければ」?――後述のように、展示作品では『ラーマーヤナ』関係の作品のほうが『マハーバーラタ』関係よりもはるかに多いからです。 まずは『ラーマーヤナ』がどういうお話なのか紹介しましょう。『ラーマーヤナ』は『マハーバーラタ』よりも短いだけでなく物語の構造がはるかに単純です。『マハーバーラタ』には全編を貫く絶対的な主人公がおらず多数の英雄たちが過去から現在まで長大な歴史のなかで現れては消えていくのに対し、『ラーマーヤナ』はラーマというひとりの英雄的主人公をめぐる物語で、そのストーリーもラーマの苦難と戦い、勝利まで、直線的に、比較的短い時間軸で展開します。 アヨーディヤーの王子ラーマは知性、人徳、政治力、戦闘力そして容姿にも恵まれた非の打ちどころのない英雄で、美女シーター [1] をめとりますが、父王の妃カイケーイ(ラーマの実母ではない)による自分の息子バラタを王位につけようとする悪だくみによって 14 年間森に追放されます。ラーマは長子でもあるので、どう考えても納得しにくい話ですが、王はカイケーイへの約束を守るためにこの提案を受け入れざるをえなくなります。ラーマも父の指示に従い、王宮のあらゆる特権も贅沢な暮らしも捨てて、シーターと、腹ちがいの弟ラクシュマナとともにチトラクータの森で修行者のように暮らします (下図参照 このへん『マハーバーラタ』のパーンダヴァ兄弟の追放に似ていますね) 。 作者不詳《森へ追放されるラーマ》  福岡アジア美術館所蔵 しかしその間、ランカ(現スリランカ)の羅刹(ラクシャサ、悪鬼)ラーヴァナにシーターを奪われてしまいます。 (下図参照 『マハーバーラタ』の英雄たちと同じようにラーマもこういう失策をするのです。鳥はシーターを救おうとしてラーヴァナに敗れた霊鳥ジャターユ。) ラージャー・ラヴィ・ヴァルマー 《ラーヴ

「ヒンドゥーの神々の物語」展によせて  忘却のレッスン~『マハーバーラタ』の深みにハマる(下)

( [上] はこちら)   3 『シャクンタラー姫』の「忘れたふり」? 『マハーバーラタ』の本筋の主人公たちの祖先にあたるクル家の王の物語として名高いのがカーリダーサ作『シャクンタラー姫』です。私が読んだのは岩波文庫の辻直四郎による擬古文を多用した訳なので読みづらく、解説書や別バージョンから下記のストーリーを再構成しています。 「ヒンドゥーの神々の物語」展 には、シャクンタラーの物語を描いた ラージャー・ラヴィ・ヴァルマー 作品 2 点が出品されています。《シャクンタラーの誕生》は、インドラ神の策略でアプサラス(天界の踊り子)メネカーがわざとらしく裸を見せて聖仙(苦行者)ビシュバミトラを誘惑し女子を生みます。その赤ん坊(シャクンタラー)をビシュバミトラに見せようとしますが、彼が自分の子と認知しないで見ようともしない場面。ヴァルマー・プリントのなかでもよく知られたもので [1] 、展示中のマッチラベルにもなってます。 ラージャー・ラヴィ・ヴァルマー《シャクンタラーの誕生》  20 世紀前半 福岡アジア美術館蔵 ヴァルマーはインドで初めてヨーロッパ様式の油彩画を本格的に制作した巨匠とされていますが、複数の職人が製版・印刷するプリントはもちろん、油彩画を見てもヨーロッパのアカデミズム絵画の基準からしたら下手くそです。この作品でも、遠近感や人体が不自然。でもそれよりさらに不自然なのがビシュバミトラの左手を高く上げて顔を覆うポーズで、当時の演劇でのジェスチャーからきているとか。なお男性が自分の子供を認知しない場面は、以下に述べるように、成長したシャクンタラー自身が経験することになるので、よほどインドではこういう話が多かったのでは……。 もう一点は《恋文をしたためるシャクンタラー》で、後世の『マハーバーラタ』一族の祖先であるドフシャンタ王にひとめぼれしたシャクンタラーが、二人の友人のすすめで蓮の葉にラブレターを書いているところ。中央上部の鹿も物語に出てきますが、森のなかに横たわる人物、全体の三角形構図とその頂点が奥まっているのに手前に見えるところから、 エドゥアール・マネの《草上の昼食》 を思い出すのは私だけでしょうか…… ラージャー・ラヴィ・ヴァルマー《恋文をしたためるシャクンタラー》 1930 年代 福岡アジア美術館蔵(黒田豊コレクション) ではこのシャクンタラーの

「ヒンドゥーの神々の物語」展によせて  忘却のレッスン~『マハーバーラタ』の深みにハマる(上)

  1 『マハーバーラタ』への道 3 月 29 日まで開催中の「 ヒンドゥーの神々の物語 」を見て、『ラーマーヤナ』と並ぶインドの大叙事詩『マハーバーラタ』にだいぶ昔( 1989 年頃?)に出会ったことを思い出しました。『マハーバーラタ』はとんでもなく長大な物語で、「サンスクリット原典で全 18 巻、 10 万詩節、 1200 章、 20 万行を超える世界最大の叙事詩」(山際素男による)。聖書の約 3 倍半と言われてもピンときませんが、山際編訳の 9 巻本 [1] は計 3119 ページ。池田運の全訳 [2] が 4 巻で 4126 ページにもなります。武人たちを中心として神々や聖者や美女など多数の人物が登場する物語ですが、中心となるのは、パーンダヴァ家5兄弟(ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ)と、カウラヴァ家 100 人兄弟の、親族どうしの凄絶な戦争(クルクシェートラの戦い)でクライマックスを迎える壮大きわまりないお話です。 作者不詳《カウラヴァ族とパーンダヴァ族の戦争》 20 世紀前半 福岡アジ ア美術館蔵 本筋以外にこの一族の長い歴史も、ナラ王とダマヤンティ、シャクンタラー姫(このふたつは岩波文庫で独立した本になってます)を含む無数の物語も、戦争の後日譚も、後述の高名な「バガヴァット・ギーター」のようなヒンドゥー教の聖典も含まれます。現代人は多忙なうえに娯楽がいくらでもあり、わずかな空き時間もスマホに奪われていますから、全部を通読する余裕(忍耐力?)のある人はほとんどいないでしょう。インド国営テレビ・ドゥールダルシャンで 1988 年 10 月から 1990 年 6 月まで放映され最高視聴率が 92 %という驚異的な人気を集めたテレビシリーズの DVD も、だいぶ後になってインドの書店で入手しましたが [3] 、 45 分の 94 回分! DVD19 枚!なんて見る時間はとれそうもなく、第1回だけしか見てません……。 ドゥールダルシャン放映( B.R. チョプラ製作、ラヴィ・チョプラ監督) 『マハーバーラタ』 DVD ボックス( 2008 年) 筆者蔵 横山光輝の『三国志』みたいにマンガで気楽に読めるといいんだけど……そんなの日本では出ていませんから、私が『マハーバーラタ』の全体像を把握できたのは、レグルス文庫の 3 冊本(下記参