他人を笑うな、自分を笑え! チャーチャーイ・プイピア作品における彼岸からの眼差し 利益になるわけでもなく自明の正しさに同調させるのでもないあらゆるものを冷酷にそぎ落としていく傾向にある世界で、ただ単に美術家「である」だけということは、多くの人に尊重され注目されるべき深遠な抵抗の行為なのだ。 (グレゴリー・ガリガン「チャーチャーイ・プイピア 孤立の場所 静物、自画像、生きているアーカイブ」 [1] ) 1 現在、アジアギャラリーAには、タイの作家チャーチャーイ・プイピア(1964年生まれ)による大作絵画《花よ、人は死んだらどこへ行くのか》(1997年、以下《花よ》)が展示されています(12月25日まで)。6月22日までには、同じ作家の《皮膚の下の欲望》(1989年)も、アジアギャラリーBの「 感覚の宇宙―アジアの抽象美術 」に展示されていました。 [2] チャーチャーイ・プイピア 花よ、人は死んだらどこへ行くのか Dok Peep, Where Does One Go after Death? 1997年 油彩・画布 239.2×280.1 cm 福岡アジア美術館所蔵 絵画作品は、スペクタクルやエンターテメントが求められ映像や体験型空間で人を驚かす国際美術展や芸術祭では注目されにくくなってしまいましたが、 1990 年代以後もアジア各地で強力な画家が輩出し、国内外の美術市場をにぎわせてきました。絵画作品が、図像の凝縮と永遠化によって、時代を超え地域も超えた深い思想を伝えてくれることは今も変わりはなく、インターネットによって即時的に図像が消費されていく時代だからこそ価値があるともいえます。特にこのチャーチャーイ・プイピアは、傑出した画力と強烈なイメージ生成力によって、 1990 年代にタイのみならずアジア全体のなかでも高い注目を集めました。しかし彼は、その名声にもかかわらずあえて美術界から身を引き、「隠棲」の生活を選んだことからもわかるように、政治状況の変化や、短期的に消費される現代アートの流行や国際化の幻想に惑わされることなく、部外者(アウトサイダー)としての位置を保つことによって、一貫して現代人...
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