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「ヒンドゥーの神々の物語」展によせて2   本当はおそろしい『ラーマーヤナ』

  1 『ラーマーヤナ』の物語 3 月 29 日まで開催中の「 ヒンドゥーの神々の物語 」展にかこつけて 『マハーバーラタ』について 2回にわたってぐだぐだ書きましたが、同展もあと1か月ほどになりましたので、『マハーバーラタ』と並ぶインドの大叙事詩『ラーマーヤナ』についてもぐだぐだ書かなければなりません。なぜ「書かなければ」?――後述のように、展示作品では『ラーマーヤナ』関係の作品のほうが『マハーバーラタ』関係よりもはるかに多いからです。 まずは『ラーマーヤナ』がどういうお話なのか紹介しましょう。『ラーマーヤナ』は『マハーバーラタ』よりも短いだけでなく物語の構造がはるかに単純です。『マハーバーラタ』には全編を貫く絶対的な主人公がおらず多数の英雄たちが過去から現在まで長大な歴史のなかで現れては消えていくのに対し、『ラーマーヤナ』はラーマというひとりの英雄的主人公をめぐる物語で、そのストーリーもラーマの苦難と戦い、勝利まで、直線的に、比較的短い時間軸で展開します。 アヨーディヤーの王子ラーマは知性、人徳、政治力、戦闘力そして容姿にも恵まれた非の打ちどころのない英雄で、美女シーター [1] をめとりますが、父王の妃カイケーイ(ラーマの実母ではない)による自分の息子バラタを王位につけようとする悪だくみによって 14 年間森に追放されます。ラーマは長子でもあるので、どう考えても納得しにくい話ですが、王はカイケーイへの約束を守るためにこの提案を受け入れざるをえなくなります。ラーマも父の指示に従い、王宮のあらゆる特権も贅沢な暮らしも捨てて、シーターと、腹ちがいの弟ラクシュマナとともにチトラクータの森で修行者のように暮らします (下図参照 このへん『マハーバーラタ』のパーンダヴァ兄弟の追放に似ていますね) 。 作者不詳《森へ追放されるラーマ》  福岡アジア美術館所蔵 しかしその間、ランカ(現スリランカ)の羅刹(ラクシャサ、悪鬼)ラーヴァナにシーターを奪われてしまいます。 (下図参照 『マハーバーラタ』の英雄たちと同じようにラーマもこういう失策をするのです。鳥はシーターを救おうとしてラーヴァナに敗れた霊鳥ジャターユ。) ラージャー・ラヴィ・ヴァルマー 《ラーヴ