2017年11月14日火曜日

あのときのリー・ウェンから思うこと(また改訂)

「サンシャワー」展の紹介にはならないかもしれないけど、この機会に、どうしても書かせてもらいたいことがあります。

展示中の「イエローマンの旅」の記録写真のひとつに、輪郭だけで人体が描かれている床に置かれた白い布のカットがあるのにお気づきでしょうか。
日にちは1994年9月30日。そう、イエローマンが天神でのパフォーマンスを決行した日です。よく使われる新天町の写真のあのとき。その写真では左側に帽子に口髭というあやしい男性がうしろにいますが、現F市美術館のN副館長(伏字の意味なし)です。それはともかく。
イエローマンがIMS(福岡以外の人のため…「イムズ」と読みます。横書きで手書きすると「仏(ほとけ)ズ」になっちゃいます。どうでもよかった)を訪れると、地下二階に大きな布を広げて制作中だったのが、あの小沢剛です。FT1作家。彼は第4回アジア美術展と同時期に開催され、正式に協力関係を結んでいたミュージアム・シティ・天神(MCT)に参加していたのです。(話はそれますが、当時長期間海外研修中で私が福岡にいないときに、福岡市美のIY学芸課長がMCTの山野真悟氏(現・黄金町エリアマネジメントセンター)に相互協力を提案したと伝え聞いたとき、すごく感激した覚えがあります。)
で、話を戻し、小沢氏がIMSで制作していたのは、「なすび新聞」です。彼の重要な作品である「なすび画廊」は、内側を白く塗った牛乳箱を、東京の狭小な空間で狭い美術業界のなかだけで成立している日本の美術の慣習を皮肉った、彼ならではの楽しさと批評性とコラボレーションを伴う作品でした。当時の小沢氏は、手書きのファックス(!!!)での「なすび新聞」を発行していました(私もそれを受け取っていて、福岡市美術館の「ネオ・ダダの写真」展の広告をのせてもらったこともあります)。この1994のMCTでは、いろいろな作家(会田誠!福田美蘭!村上隆!中村政人!ほかの今や豪華メンバー!)に展示してもらった「なすび画廊」を天神各所に展示し(小さいから融通きくのです)、また「なすび新聞」の巨大版をIMSで制作していたのです。そこに現れたのがイエローマンで(小沢氏はたぶん予期していなかったと思うが)、即座にその場でイエローマンの登場がニュースにしようと、リー・ウェンが布の上に横たわり、体の輪郭を描かれたのです。たぶん(見てないから)。[編注:記録写真では確認できませんでしたが、のちリー・ウェンの証言から、次のことがわかりました。本番前日の29日にリーが天神を訪れたとき、この場所で新聞を制作中だった小沢からここでパフォーマンスをしないかと提案したそうです。そのときは普段着のリーは、布の上に横たわり、小沢氏が輪郭を描きました。30日には黄色く塗った体の上に黒い服を着てこの場所を再訪したリーは、自分の体の絵に合わせてその上に横たわり、新聞の上で転がった。]これは30日の写真です。
あのオシャレな商業ビルのIMSでよくもこんなしょぼい作品を(失礼)と思いますが、もっと驚くべきことは、この「なすび新聞」、天神でも最高の広告スペースといってもいいIMS正面のバナーとして掲げられたのです! 
字が小さくて読めないぞ! 市ヶ谷自衛隊で三島由紀夫が掲げた檄文も読めないが!(どうでもいい連想ですみません) 手元に写真がないので記録集「ミュージアム・シティ・天神'94, Fukuoka, Japan[超郊外]」(ミュージアム・シティ・プロジェクト発行、1995年)から(著作権法でいうところの)「引用」させていただきました。本のノドにかかるレイアウトが残念……
広告代とればいくらになるかわかりませんが、経済効率考えたら絶対にしないですよね。というのも、IMSはMCT以前に芸術祭をやっていて、商業空間での現代アート展開に積極的で、MCP(Museum City Projectです、Malayan Communist Partyではありません。って誰もそう思わないって)のメンバーにもなっていたのです。
ちなみに記録写真では、同じ日、イエローマンは、IMSの三菱地所アルティアムで開催されていた山出(やまいで)淳也の個展を見に行ってます。この名前聞いたことあるって?そう、今や別府のアートプロジェクトで全国に知られるあの山出氏です。話しはまたそれるけど、彼は翌1995年に私がコミッショナーとなって(なぜ当時「キュレーター」と言わなかったのか謎)第7回バングラデシュ・アジア美術ビエンナーレに参加してます(阿部守が最高賞です、あと風倉匠がパフォーマンス)。1994年のアジア美術展は、あのナウィン・ラワンチャイクンの日本でのデビューですから、このころにアジア各地で「交流型」作家が登場しはじめていたのですね。同じアジア展に出た藤浩志、中村政人両氏もその流れにあり、藤氏は「かえっこ」などのプロジェクトや十和田市現代美術館の運営、中村氏は3331 Arts Chiyodaの開設・運営と、社会システムと美術を接続するオーガナイザーとしての才能を発揮していったわけです。今年4月に3331 Arts Chiyodaでリー・ウェン展が開かれたのもこのときの縁でしょう。
ついでに、リー・ウェンが「サンシャワー」初日のトークで少しわかりにくかった事実を整理おきます。彼が「イエローマン」として街に出たのはこの9月30日だけでなく、10月7日の「博多少年アート」もあったということです。これは小沢、中村政人らが、東京でやってきた「新宿少年アート」「ギンブラート」の流れで、一日だけ限定された都市空間で自己責任のもとに誰が何をしてもいいというイベントで、中洲エリアで行われました。私は忙しすぎてほとんど見てません。福岡市美の某学芸員がおこなったカエルちゃんパフォーマンスも記録で見ただけ。ヘリ・ドノも参加したはずだが(カエルではありません)何をやったか不明。中洲のバーでのうちあげでパフォーマンス?やったのは見たのだけど…… この東京組主導のイベントでも、「なすび画廊」でも、MCTでも、今みたいに地域振興とか観光とかまったく念頭にない時代におこなわれた「美術の外」に出るイベントのほうが今日の国際芸術祭のあまりにものわかりのよすぎるプロジェクトよりはるかにおもしろかったと思うのは私だけでしょうか。
なお記録によれば、この「博多少年アート」の3日前にリー・ウェンは藤浩志らと、今をときめく草間彌生!のトークを聞きにいってます。今だったら絶対に草間さんのMCTへの参加はありえないですよね… なおこのときに草間さんが天神の福岡銀行前!に置いたカボチャ作品が、福岡市美術館に収蔵されました、大濠公園側エントランスにあったアレです。これも「1994年」のレガシーです。

この前の1991年に福岡でMCPが企画した「非常口 中国前衛美術家展」は、前年のMCTに参加した蔡国強(ツァイ・グオチャン)が、天安門事件以後に行き場を失った中国の前衛美術家にとって福岡が「非常口」となりうると期待したからこそ実現したのです。これは中国国外では全世界で2番目の中国前衛美術家展となりました。
このことも考慮すると、1990年代初頭の福岡には、国内とアジアから意欲的なアーティストを集める吸引力があったということはまちがいありません。

アジ美ブログ史上最長?で書かせていただいたのは、「サンシャワー」でのリー・ウェンの再来が、おそらく当時の全世界でも最もアートに活気があったのでは?!と思わせる、「奇跡」といってもいいあの「1994年の福岡」のことと、そこで起こったさまざまな人たちの出会い、その人たちの今へと、次々と連想が広がっていき、ノスタルジーであることは否定しませんが、とにかく、そのようなことがこの福岡という、アジアのなかでも決して大規模とはいえない街で起こったということを、そのとき、そこにいなかった人に、今後の福岡の、アジアの、世界の美術を考える材料にしていただきたいからです。
と、黒田運営部長が言ってます。(ししお)
Sorry too long for English translation. [Shishio]


2017年10月31日火曜日

承天寺のスーザン・ヴィクター作品(ほぼ)完成! 「夜の顔」が見れるのは明日から5日間だけ!

明日から始まる博多ライトアップウォークの内覧会でのスーザン・ヴィクター作品。本来は明るい昼間に周りの建物や風景を変形して反射するものなのですが、周りが暗いとライトアップのおかげで全体が光の塊のように見えて格別の美しさ。
夜の状態を見れるのはライトアップウォーク期間中ですので(この場所は無料観覧できます)、ぜひ覗いてみてください!(もちろん昼間も見てくださいね) (ししお)




Susan Victor's work at Jotenji Temple in tonight's preview of Hakata Light Up Walk. The work is supposed to reflect cityscape and sky around multiplying them in daytime, but at night, the whole structure becomes a mass of light, spotlighted for Hakata Light Up Walk. 
This view is possible only during this event, Nov 1 to 5, 17:30 - 21:00 (free entrance to this site). So you should not miss (but you have to come to see again in daytime, as well!)  [Shishio]

2017年10月19日木曜日

博多リバレイン灯明(第23回博多灯明ウォッチング2017)開催☆


昨年の様子

博多の夜の風景を数万個の灯明で幻想的に照らし出すイベント「博多灯明ウォッチング」。
その会場の一つとして今年も「博多リバレイン灯明」を実施します。
福岡アジア美術館滞在中のインドのアーティスト、クルパ・マーヒジャーさんの下絵による地上絵がご覧いただけます。
農村の暮らしを描いたインドのフォークアート「ワルリー画」を由来とする楽しい図案をお楽しみください。
灯明の灯りで彩られた博多川を遊覧できる「灯明舟」(乗船無料)の運航もあります。
ぜひお越しください。


◎博多リバレイン灯明◎
(第23回博多灯明ウォッチング2017)

日 程:2017年10月21日(土) 18:00-21:00(少雨決行)

会 場:博多リバレイン フェスタスクエア  
     (福岡市博多区下川端町3-1)
     *リバレインセンタービルとホテルオークラの間

*入場無料*

問い合わせ:博多リバレイン灯明実行委員会(090-9579-3596)

第23回博多灯明ウォッチング2017


クルパ・マーヒジャー
クルパさんによるプラン図











2017年10月6日金曜日

ナリニ・マラニのポンピドゥーでの回顧展

インド・ムンバイを拠点に国際的に活躍するナリニ・マラニ(福岡アジア文化賞受賞者)のポンピドゥー・センターでの1969~2018年作品の回顧展「死者の叛逆」がもうすぐ開会!
Nalini Malani : La rébellion des morts, rétrospective 1969-2018
上記サイトの映像で、ナリニさんがアジ美レジデンスで制作した「ハムレットマシーン」(福岡の舞踏家・原田伸雄出演)がちらっと見れます。
ポスターや図録の表紙も「ハムレットマシーン」です!
パート1のパリの会期は10月18日から来年1月8日まで。パート2はイタリアのCastello di Rivoli (Part II) で2018年3月27日から7月22日まで。 
(ししお)
Nalini Malani's retrospective soon opens at Centre Pompidou, Paris! 
You can see a teaser video in the site above with 'Hamletmachine' the artist created in her residency at FAAM, starring Harada Nobuo, Butoh dancer based in Fukuoka.
Part 1 in Paris is 18 October 2017 - 8 January 2018; part 2 is 27 March to 22 July, 2018, at Castello di Rivoli.
[Shishio]

2017年9月17日日曜日

アジアフォーカス・福岡国際映画祭 『密をあたえる女(ひと)』上映

9月15日に開幕した今年の「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」。そのなかで、『密をあたえる女(ひと)』というブータンの映画が紹介されています。手がけたのは、ブータンの若手女性監督、デチェン・ロデル。そうです、前回(2014年)の福岡トリエンナーレで紹介したあの「デチェン・ロデル」です。

福岡トリエンナーレでは、ブータンに生きる等身大の女性を主人公にした『幸せの証明書を探して』『心のマンダラ』をいち早く上映しました。

今回の『密をあたえる女』は紹介文によると、「謎めく美しき女」「静かな映像で綴られる幻想ミステリー」。写真を見ていても妄想が・・・美女、弓矢、タイヤ、特訓、もうだめだ、まだ大丈夫よ、はい蜂蜜! そんな映画でないことだけは確かだと思いますが、気になった方は会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。



密をあたえる女(ひと)
2016年/ブータン/132分/日本語・英語字幕
監督:デチェン・ロデル

◆今後の上映予定(あと2回あります)
日時:9月20日(水)17:50~/9月22日(金)10:15~
会場:ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
http://www.focus-on-asia.com/lineup/

2017年9月15日金曜日

9/23(土)「滞在作家によるトーク~これまでの活動と福岡での予定~」開催!


この秋、福岡アジア美術館には、2017年度2人目のレジデンス・アーティストとして、クルパ・マーヒジャー(インド)が滞在し、制作やワークショップなど、美術を通した様々な交流活動をおこないます。
 来福後初めてとなる今回のトークでは、これまで発表した作品や福岡での活動内容などについてお話ししていただきます。ぜひご来場下さい。


滞在作家によるトーク
~これまでの活動と福岡での予定

■日 時 
平成29年9月23日(土・祝)
午後2時~3時30分

■会 場 
彫刻ラウンジ(7階)
  
*入場無料・逐次通訳(事前申込不要)




□作家紹介
クルパ・マーヒジャー/Kurpa Makhija
1983年、グジャラート生まれ、アーメダバード在住。
消えゆく文化や歴史、記憶をテーマに、使い古された素材で美しいインスタレーションを制作するアーティスト。
福岡では取り壊された建物の廃材を集めて作品を制作する。青焼技法をつかったワークショップも実施。

(滞在期間:9月7日~12月5日)


http://faam.city.fukuoka.lg.jp/event/detail/571

2017年8月18日金曜日

陳澄波記事から思うこと

毎日新聞(8月16日)に、現在アジ美で展示中の陳澄波(チェン・チェンボー)作品が紹介されました。
東アジア近代美術の重要作家の作品が日本にあったこと自体が珍しいですし、陳澄波は台湾ではいかにも「台湾的」なスタイルの油絵を確立したまさに「巨匠」であり、近代美術にはそぐわない故宮博物院で!個展が開かれたり、「家庭美術館─美術家伝記叢書」のような一般向け美術全集にのるほど有名です。地方都市の近代化と親密さとが混ざり合うリアルのようで幻想的な絵で知られる陳にしてはやや珍しい画題、台湾東海岸のインフラ整備と「原住民」文化研究支援という日本から台湾への両義的な関心など、いろいろな読解が可能な作品です。
皆さんのおうちにもひょっとしてアジア近代美術の名品が眠っていませんか?!
展示作品に直接は関係ありませんが、陳澄波をいっそういっそうヒロイックにしているのは、毎日の記事にもあるように、彼が二二八事件の犠牲者だったことです。この写真は、黒田部長が台北二二八紀念館の前で撮ったもの。事件の犠牲者の名前と顔写真が屋外に展示されています。背景の明るい公園の風景でなく手前のガラスに印刷した写真にレンズの焦点を合わせないとうまく撮れません。皆さんがよく知っていると思っているアジアの街でも、焦点を変えてみることで、いろいろな歴史と人生が見えてくるのです。[ししお]