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美術館で本を楽しむ

  美術館には図書室があることをご存知ですか? 日本全国津々浦々大小様々な美術館が存在していますが、「図書室」という名称を持たなくても調査・研究のための書籍や資料が並んだ書架は館内に必ず存在します。 そして中には司書を配置し、ミュージアム・ライブラリとして一般に公開している図書室もあります。 そう、アジア美術館もその一つ。当館 8 階奥の方、あじびホールの手前に閲覧席数 6 席の小さな図書閲覧室があります。実はこの図書室の奥には、 6 万冊もの本が並ぶ表からは見えない閉架式の集密書架があります。 アジアの近現代美術に関する専門図書室として、所蔵作家や作品を調査・研究するため、その関連のある国や地域の歴史、文化、社会などの背景を知るため、そして研究者や展覧会の成果物を活用できるように図書室の資料は整理されています。 図書閲覧室   そして当館の蔵書を楽しめる第 2 のスペースが、ブックカフェ形式で国内外のアジア・アート・旅に関する書籍が閲覧できる 7 階のアートカフェです。ここに並ぶ約 1 万冊の本は、閉架書庫から選書されたものです。 現在では、本を読むためにアートカフェに足を運んでくださる方もいて「本も一緒に楽しめる美術館」というイメージが少しずつ広がってきているのではないかと感じています。 アートカフェ 先月からは、 オンラインで図書室の蔵書が検索できる サイト ( https://ajibi.opac.jp/ ) を公開しました。当館の検索ポイントはやはりアジアの作家たちです。独自の入力項目を設定し、展覧会図録に図版が掲載されている作家名をコツコツと入力してきました。この作家名がキーワード検索によりヒットするので、アジア美術の情報を求める方にとって、さらに詳細な情報を提供できるようになりました。 資料の特性上、一般に流通していない資料が多く、保存・管理上の観点からも一般の公共図書館のように貸出や複写サービスは提供していません。それでも、普段あまり手に取ることのないアジア美術に関する本をもっと知ってほしい、本格的に知りたい方への調査・研究の手助けになれれば、ということで公開しています。 私事ですが、イチ図書

東京であじびと出会う~「うるおう アジア」はけの森美術館にて開催中!

 いま、東京でもあじびコレクションをたっぷり楽しめることをご存知ですか?  今年4月から1年間、福岡アジア美術館のコレクションを、近代美術を中心に大衆芸術・民俗芸術など当館独自のジャンルにも注目してご紹介する展覧会「うるおう アジア ―近代アジアの芸術、その多様性―」が、全国4カ所の美術館を巡ってきました。  はつかいち美術ギャラリー(広島)、四日市市文化会館(三重)、上田市立美術館(長野)を経て、今月はじめから、いよいよ最後の会場となる東京・小金井市立はけの森美術館での展覧会がスタートしました。 はけの森美術館入口。大きな木が目印です  他館に所蔵作品を1~数点貸し出すのは、コレクションを持つ美術館ならよくあることですが、これほど沢山の作品(約100点)を一気に貸し出し、さらにそれが当館のコレクションだけを紹介する展覧会として結実することは、滅多にない貴重な機会です。  そしてもうひとつのポイントは、あじびの学芸員ではなく、会場となる全国4カ所の美術館の学芸員さんたちが作品を選び、コンセプトを立てつくりあげた展覧会であるということ。普段とは違う専門家の視点が入るからこそ「この館の学芸員さんにはあじびの作品ってこう見えるんだな~、こういう作品が興味を引くのか~」と、新鮮な気づきがたくさんあります。そして各館の方針やその地域の状況に合わせて、出品作品も会場ごとに丁寧に調整されています。 作品が到着し、これから展示作業が始まるぞ~という様子。 どんな会場になっているかは乞うご期待!  さて「うるおう アジア」最後の会場となるはけの森美術館さんは、もとは福岡出身の洋画家・中村研一(1895-1967)のアトリエや住居も備えた記念美術館。コレクションも中村の作品が中心で、近代日本の洋画壇を牽引した彼の画業を見渡せるユニークなものとなっています。そういった館の特色とのつながりも考え、はけの森での「うるおう~」は、アジアの近代美術がハイライトのひとつ。また、中村は戦前アジア各地に渡り、戦争画を含む多くの作品を残したことでも知られます。本展に関連して、2階ではアジア各地で描かれた中村の作品をスケッチや水彩を中心に紹介するコレクション展を企画していただいていますので、そちらもお見逃しなく! 2階コレクション展示室の様子 最後に、もともと中村が暮らした場でもあるはけの森美術館は、緑豊

人新世のレジリエンス

キリ・ダレナ《トゥンクン・ランギット》 2013 年、 20 分 36 秒 現在開催中のコレクション展「アートと環境-人新世を生きる」の中から、キリ・ダレナの《トゥンクン・ランギット》にスポットを当ててご紹介します。 本展を考え始めたころ、一番に思い浮かんだのがこの《トゥンクン・ランギット》でした。この作品は、フィリピンを直撃した台風によって、両親と兄弟を失った子供たちに密着したドキュメンタリー映像です。 近年、 CO 2の排出による地球温暖化、それにともなう海面上昇や気候変動といった環境問題が、地球規模で進行しています。東南アジアにおいては、 1975 年以降大型の台風が 3 培に増えたと言われています。ニュースや書籍でそのような情報に触れることも多いかと思いますが、地球規模の問題を身近に感じることはなかなかありません。 この作品は、私たちの何気ない日常が、フィリピンの田舎町で起こっている、子供たちの人生を変える自然現象につながっていることを意識するきっかけとなるでしょう。   本展のタイトルにもなっている「人新世」という新しい地質年代ですが (注1) 、人間が環境に大きな負荷を与えているという点で、後悔や不安ばかりが先立ちます。一方でこの《トゥンクン・ランギット》には希望も込められています。 作者は、災害ボランティアで訪れていた村で、主人公となる子供たちに出会いました。当時、妹の Analou は 9 才、兄の Apolonio は 12 才でした。 のちに「あらゆるものが子供たちの心の治療となることを望んでいました」 (注2) と語っているように、インタビューというよりは、お絵描きやおしゃべり、撮影というよりは、カメラを渡して遊んでもらうといった手法で、子供たちと関係を深めていきます。そして彼らが、台風の経験や両親のことについて乗り越える手助けとなるよう、長い時間をかけて取り組みました。               筆者がこの作品と出会った当初は、懸命に生き続ける子供たちの姿に胸が締め付けられる思いでしたが、何度も見ていくうちに、彼らの無邪気な笑顔や無垢な会話に助けられるようになりました。子供たちが持っている回復する力(レジリエンス)には驚かされるものがあり、作者もきっと一緒に時間を過ごすなかで、子供たちの持つ力に心動か