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糸玉との格闘


現在、アジアギャラリー「福岡アジア美術館 ベストコレクション」にて展示中の、ン・ティエンミャオ(林天苗)《卵#3》。

広い空間にちりばめられた無数の白い球に加え、奥に立っている像の大きさや作品が持つメッセージ性も相まってとても印象的な作品です。

この作品、お客様からよく3つのことを尋ねられます。

現在の展示風景

 

Q.1 糸玉は何個あるんですか?

 

試しに、手前の2㎡にも満たない場所に転がる糸玉(下の写真)を数えてみたら、まばらなのに200個以上! この面積ですでにこの数なので、数えるのは早々に断念しましたが、上の写真のように奥ではもっと広範囲に密に転がっていますから、全体では数千個はありそうです。

実はこの卵、女性の卵子も意味しています。女性は一生のうちに400500の卵子を排卵するそうですが、生まれたときには約200万個の原子卵胞をもっているそうです。さすがにそんなにたくさんはありませんが、きっとこの作品の糸玉、2000個以上はありそうです。(誰か、勇気を出して?!数えてほしい…) 



しかし、凄いのは、これだけの糸玉を作家が手作業でくるくる巻いて作成したこと。あらためて関心します。

手前の2㎡に満たない場所に転がる糸玉

 

 

Q.2 小さな糸玉も正確に配置していますか?

 

とんでもありません(笑)

作家自ら展示したときの写真(下記)を参考に、空間に合うように学芸員が配置しています。「…まあ、センスの問題」と言ったほうがいいですね。ただ、あまり左右対称の扇型にはならないように配慮しています。もし、見た目がよくないと思われたら、それは作家と作品のせいではなく、わたしたち学芸員のセンスのせいですね(笑)

 

        

作家による展示風景(2002年「第2回福岡アジア美術トリエンナーレ」)

 

Q.3 展示していないときは、どうやって収納しているのですか?

 

糸玉につながっている糸は、適当なところをハサミでチョキンときります。そして糸がもつれないように整理して、糸玉の大きさごとに仕分けして段ボール箱にしまいます。

ただ、写真部分は、糸玉をつけたまま海苔巻きみたいに巻いてしまうので、実は、展示するときがたいへんなんです。つまり、どんなに工夫しても、巻いたのを開いてみると糸玉と糸が絡み合っているのです。それを解きほぐすのに、3人がかりで丸2日。そのあとは、上記のようにセンスよく展示して照明。つごう丸3日はかかる代物。展示方法は簡単ですが手間はかかる!!ほんとうに10年に一度ぐらいしか出したくない作品で、いまのうちにぜひご覧になってくださいね。

(学芸員:ラワンチャイクン寿子)