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人新世のレジリエンス

キリ・ダレナ《トゥンクン・ランギット》2013年、2036









現在開催中のコレクション展「アートと環境-人新世を生きる」の中から、キリ・ダレナの《トゥンクン・ランギット》にスポットを当ててご紹介します。

本展を考え始めたころ、一番に思い浮かんだのがこの《トゥンクン・ランギット》でした。この作品は、フィリピンを直撃した台風によって、両親と兄弟を失った子供たちに密着したドキュメンタリー映像です。

近年、CO2の排出による地球温暖化、それにともなう海面上昇や気候変動といった環境問題が、地球規模で進行しています。東南アジアにおいては、1975年以降大型の台風が3培に増えたと言われています。ニュースや書籍でそのような情報に触れることも多いかと思いますが、地球規模の問題を身近に感じることはなかなかありません。

この作品は、私たちの何気ない日常が、フィリピンの田舎町で起こっている、子供たちの人生を変える自然現象につながっていることを意識するきっかけとなるでしょう。


 






本展のタイトルにもなっている「人新世」という新しい地質年代ですが(注1)、人間が環境に大きな負荷を与えているという点で、後悔や不安ばかりが先立ちます。一方でこの《トゥンクン・ランギット》には希望も込められています。

作者は、災害ボランティアで訪れていた村で、主人公となる子供たちに出会いました。当時、妹のAnalou9才、兄のApolonio12才でした。

のちに「あらゆるものが子供たちの心の治療となることを望んでいました」(注2)と語っているように、インタビューというよりは、お絵描きやおしゃべり、撮影というよりは、カメラを渡して遊んでもらうといった手法で、子供たちと関係を深めていきます。そして彼らが、台風の経験や両親のことについて乗り越える手助けとなるよう、長い時間をかけて取り組みました。


 

 

 

 

 

 

 

筆者がこの作品と出会った当初は、懸命に生き続ける子供たちの姿に胸が締め付けられる思いでしたが、何度も見ていくうちに、彼らの無邪気な笑顔や無垢な会話に助けられるようになりました。子供たちが持っている回復する力(レジリエンス)には驚かされるものがあり、作者もきっと一緒に時間を過ごすなかで、子供たちの持つ力に心動かされたのではないでしょうか。

ラストのシーンはとても印象的で、海のなかに立つ一本の木が登場します。

今回、作者にこの場面の意図を聞いたところ、「これは浸水されてもなお、立ち続ける木として象徴的な意味を持っています」と教えてもらいました。

「人新世」がどんな時代になるか、その答えはまだ先になりそうです。

(担当学芸員 柏尾沙織)

(注1)人新世(Anthropology)は、国際地質化学連合(IUGS)の人新世作業部会によって検討中の地質年代です。(202312月現在) 

(注2)キリ・ダレナインタビュー、ARTiT201587https://www.art-it.asia/u/admin_ed_feature/bmhukjvfgi6khi2nlgtx/

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コレクション展「アートと環境-人新世を生きる」

会期:2023914日(木)~1225日(月)まで

場所:福岡アジア美術館 アジアギャラリー(7F