2023年6月23日金曜日

新ウェブサイト「アジア美術資料室」使い方指南 上級編①②(いきなり最終回)

アジア美術資料室」使い方指南 第6回

「小出しにしないでさっさと全部教えなさい」という声が聞こえてきそうなので上級編もテンポを速めて盛り上がるかどうかは気にせずイッキに最終章まで持っていきます。


 自分の研究テーマで

簡易検索で「女性」で検索。











するとインドと韓国とフィリピンで同じ1987年に女性アーティストだけの展覧会や組織がたちあがっていることがわかります。なぜこの年に?と思い今度は1987年で詳細検索。すると韓国では民主化運動が最初の大きな勝利をおさめた年であるとわかります。韓国映画『1987 ある闘いの真実』(「闇に刻む光 アジアの木版画運動1920sー2020s」最終日にアジ美で上映)の感動的なラストシーンに出てくる「6月大抗争」があった年です。またこの1987年は台湾で戒厳令が解除され言論の自由化に向かった年で、アジ美所蔵品では、ヤン・マオリンの遊戯行為・闘争篇Ⅰがそのような政治状況を背景とした作品です。フィリピンでは前年の2月にマルコス独裁政権を「ピープル・パワー」が打倒しています。ジュリー・ルークのおなじみの作品《玉ねぎを切るたびに泣いてしまう》は1987年の制作。

女性アーティストが声をあげたのも、そのような大きな変革の時代だったのです。

ではこの1987年に日本では何があったのでしょう? ネットで調べるのは簡単。ひとつだけあげると――日本企業がゴッホの《ひまわり》を53億円で落札してました。


 日本との交流

①のヒキに続いて、実はこれこそ、この年表全体のテーマです。

「日本で開かれたアジア美術展」を調べます。最近は日本各地の美術館でアジア作家展が見れますけど、もっと昔は、福岡市美術館くらいしかないのでは?と思う人は、「詳細検索」で、「事項種別1」で「展覧会」を選び、「地域(場所)」で「日本」を選んで「検索する」、なんと144件もある結果を「古新」で並びかえ。












 なかには具体的なアジア作家の出品歴までふれていないものもありますが、1935年のキム・ファンギ(韓国、当時は「朝鮮」)、翌年のチェン・ジン[陳進](台湾)が日本の公募展で入選したことが最古。どちらもアジ美所蔵作家であり、両国でたいへん重要とされる画家です。

戦後ではアジ美所蔵作家が何人も出している「1回アジア青年美術家展」(1957年)や、東京のブリヂストン美術館での「フィリピン現代美術展」(1958年)など、先駆的なのに忘れられた展覧会が見つかります。

一歩すすんで、時代別に見てみましょう。上記の検索条件に加えて「開始年」終了年」を、「1970」から「1979」だと4件、「1980」から「1989」だと12件だったのに対し、「1990」から「1999」で48件、「2000」から「2009」で32件、「2009」から「2019」で27件。日本でのアジア美術紹介歴は今後も増やしていきますのであくまで現時点でのデータにすぎませんが、1990年代に「アジア美術ブーム」と言われた年(1994年)があったこともうなずけます。

もっと具体的には、種別「展覧会」+地域(場所)「日本」の条件に、地域(内容)で「ベトナム」など選べば、日本での各地域の美術の紹介歴がわかるわけです。このようにアジア内二国間の交流、特に日本と他の地域との交流がわかるように「地域」を「場所」と「内容」の2段構えにしているのです。

たとえば「展覧会」で、「地域(内容)」で「日本」だけを選ぶと、日本の作家が他の地域の作家と同じ展覧会に出たり、日本以外のアジアの都市で日本作家が紹介された例も見つけることができます。まだ数は少ないですが、今後この事績は増やしていくつもりです。

で、おわかりでしょうか。先にふれた「この年表全体のテーマ」とは?

日本もアジアの一員であるということです。

  

おわりに

以上いろいろな検索方法でなんらかの新たな知識や見取り図をみなさんで見つけていただければと思いますが、このサイトはあくまで「入り口(Gateway)」ですから(言い訳?)、各項目はキーワードのウェブ検索(日本語以外のサイトも)や展覧会図録や図書館など別の手段で具体的な内容を調べていただかなければいけません。当館には日本最大(断定)のアジア美術図書コレクションがありますので7階アートカフェ・8階図書閲覧室でご利用ください。

またこのサイトも次第にコンテンツを増やし、様々なリンクをはったり図版をのせるなど、ユーザーの方々が使い込むうちに「入り口」から少しでも奥のほうに導かれるように工夫していきたいと思います。まだまだコンテンツにもレイアウトにもシステムにも改善の余地はあるかと思いますが暖かく見守っていただきこのサイトを共に育てていただければありがたいです。

(いったん終わり)



2023年6月16日金曜日

新ウェブサイト「アジア美術資料室」使い方指南 中級編①②③

アジア美術資料室」使い方指南  第5回 


小出しにしたほうが余談含めてブログらしくていいのかと思いましたがなんだかあんまりダラダラ続くのもどうかなとも思い始めたので中級編は一挙掲載しちゃいます(あのアニメ結局見ないまま)。一挙掲載というほどエラそうなものではないのですが。


「調べる」年表 一覧(どんな時代?)

1900~1929、1930~1949など、トップから興味のある年代を選んでください。

(なおこの年代区分自体、既存文献に依拠したものでも、国際的なアジア美術研究で共通認識のあるものでもありません。この「資料室」サイトの独自の「仮説」です、内容を見ていくうちにいずれ別の時代区分ができてくるかもしれません。)

全アジア、全種別の事項が、まったく年代順だけで並んで出てきますので、上から順に見ていきましょう。














たとえば19701989では、日本は大阪万博のあとで政治的にも文化的にも比較的静穏だったようですが、タイや韓国、ミャンマー(当時ビルマ)では激しい民主化運動が起こり、そこから韓国民衆美術、中国の〈星星〉や85美術運動、シンガポールの〈アーティスト・ヴィレッジ〉、ミャンマーの〈ガンゴー・ヴィレッジ〉などが立ち上がっていくことで現在のアジア美術の国際化への道を切りひらいた、劇的な展開を示した時代でした。この流れのなかで1980年からの福岡市美術館での「アジア美術展」もあったのです。この時代、ものすごい盛り上がりなので、見るたびに興奮します(興奮できたら免許皆伝です)。

しかし個々の事項についてあまり詳しく記述する余裕はありませんので、キーワード(たとえば「美麗島事件」)をコピペしてネット検索をしてみてください。


「調べる」年表 検索(行ったことがある、行ってみたい地域)

「詳細検索」で地域(場所)で「モンゴル」で検索。下の「もっと見る」をクリックすれば16件表示。「開始年」(古新)で年代順に並びかえ。















すると、清朝からの独立、社会主義革命とそれによるソ連美術の影響、社会主義政府の崩壊という大きな歴史のなかで美術が展開したことがわかります。

ただ歴史を知りたいだけならいくらでもネットで検索できます。ここでは詳細検索の「事項種別」で「政治」だけ選べばいいのですが、あえて種別のちがいを無視して美術の流れが大きな政治的変動のなかにあったことがわかるのがこの年表ならではの表示です。


 サイト内検索(お気に入りの作家)

いろいろな項目に出てきる可能性があるので、「フリーワード検索」で、たとえば「ヘリ・ドノ」で検索。












並び替えで1992年「東南アジアのニューアート 美術前線北上中」が日本での紹介歴では最古。国際交流基金による東南アジアの先端的な美術を紹介する展覧会で、翌年のオーストラリアでの「1回アジア太平洋トリエンナーレ」にも選ばれてますから、ヘリ・ドノが東南アジア美術の国際化への先鋒だったことがわかりますね。いずれ本サイトで追加したい「重要作家」当確作家です。

(作家名検索での注意=日本でのカタカナ表記は展覧会ごとに一定してませんので、日本語で出ないときは上部のメニューで英語に切り替えて英語スペルで検索してみてください。ヘリ・ドノの場合はHeri Donoでブレはありません。)

(つづく~次回で最終回のはず)

2023年6月9日金曜日

新ウェブサイト「アジア美術資料室」使い方指南 初級編④(自分基準2)

アジア美術資料室」使い方指南  第4回 


年表の検索といっても何を探せばいいのかわからない方々のための「自分基準」続き。

自分が生まれた年に何があった?

「詳細検索」で自分の生年を入れて下の方の「検索する」をクリック。(注意 開始年だけに入れるとその年以後の事項がすべて出てしまうので、終了年にも同じ数字を入れてください)

試しに今年40歳になられる方で「1983」で検索、2か所に同じ数字を入れる。






ここでも右上「並び替え」(ソート)で「開始年(古新)をクリック。月が入っていれば1983年のなかでの時系列に並びます。








これだけ見てもなんだかわからない? 

ここまでくるのは初級ですが内容を読み解くのは上級でしたね、すみません。

右端の矢印から詳細画面を見て、どんな時代だったか想像してみてください。(歴史の理解にはどんなに情報量が多くても想像は欠かせません!)

なので私なりに読み解きますと、

タイのチェンマイとインドネシアの大学で美術教育が拡大

中国では官製美術の社会主義リアリズムと異質な抽象絵画の紹介に賛否両論

ベニグノ・アキノ暗殺、マルコス独裁政権に抵抗する民主化運動がやがてEDSA革命へ

……と、いずれ起こる文化や政治の大変革が胎動している年でした。

ピッタリ自分の生年で出なければ「終了年」に数年後の数字を入れてみてください。自分の生きてきた時代のアジアのできごとがわかります。(ただし現在のデータだと若い人はほとんど美術展になってしまいますが…)

ちなみに筆者の生年から10年間の間を検索・ソートしてみました。結果は…

北朝鮮でプロパガンダ美術が拡大、

ネパールやシンガポールやモンゴルでモダニズム美術(簡単にいえばポスト印象派からキュビスムあたりの抽象化傾向)が勃興、

韓国では前衛的な(反モダニズムといってもいい)傾向が始まって、その推進者のキム・グリムの美術館でのインスタレーションが撤去される 

……という時代。

さて、筆者が生まれた年は何年でしょう?

――年代がバレバレになる日本・世界の歴史事項はあえてあげてませんから、検索してわかるようになれば、中級に進級です。

(つづく)