7月1日、「水のアジア」展(以下、水展と略記)が、ようやく開幕しました。
「ようやく」といったのは、この展覧会、本当は昨年開催予定だったからです。
水展は、世界水泳選手権の福岡開催を記念したものです。ご存知の通り、世界水泳福岡大会は、2021年開催予定でしたが、東京五輪の延期、コロナウィルス感染拡大などの影響で、2度も延期されていました。1回目の延期が決まったときはさほど影響がなかったのですが、2度目の延期が決まったときには、出品アーティストとの協議も深まっており、広報物の作成にも入っておりました・・・。
それゆえ、水展の開幕は、準備を進めていたアジ美メンバーにとって非常に感慨深いものとなりました。これは出品アーティストの皆さんも同じ思いだったことでしょう。
「延期」だから、1年余計に時間をかけてゆっくり仕事するだけでいいんじゃないの?と思われる方もいらっしゃるでしょうが、そう簡単ではないのです。最も困ったことがありました。それは昨今の世界情勢の激変に伴う物価上昇です。輸送、会場設営など、昨年だったら予算内に収まる業務が、今年になると予算超過となり、その調整で追われていました。
個人的な感慨を1つ。キム・ヨンジン《液体―右から左へ》は、本展覧会の中で最も古い作品で、唯一、アジ美の所蔵作品からの出品です。1995年、というと今から28年前。この作品、福岡市美術館で開催された「アジア現代作家シリーズ キム・ヨンジン展」で出品されたものです。その時点でもちょっとローテクな感じの機材をもちいて、実際の水滴の移動の様子を拡大投影した作品。当時、私は福岡市美術館学芸員として2年目に入ったところでした。アジアの現代美術の息吹を感じ始めたころの作品として強く印象に残っています。一方で、こうした機械(と呼ぶにふさわしい外観です)を使った作品は破損がつきもの。この作品も長らく破損したままでしたが、水展出品にあたり修復され、見事に蘇りました。
今や、動く映像はほとんどがデジタルですが、このように、アーティストによる当時の既存技術の工夫により、興味深い映像表現を行っているあたりもまた、本展のかくれた見どころの1つです。
学芸課長 山口洋三