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日本経済新聞内「美の粋」にて、福岡アジア美術館のベトナム作品4点が取り上げられました!

 少し遅れての報告になってしまいますが、先日1121日の日本経済新聞日曜版NIKKEI The STYLE内の「美の粋」というコーナーで、当館所蔵のベトナム作品4点を取り上げていただきました。

テーマが「ベトナム戦争のころ(下)」ということで、絹絵の巨匠グエン・ファン・チャンの《籐を編む》(1960年)およびベトナム戦争ポスターのファム・ヴィエット・ホン・ラム《ベトナム化戦争の悲劇(ベトナム対ベトナム)》(1972年)、グエン・ニ・ザオ《ディエンビエンフーの勝利をもう一度》(1972年)、ファム・ミン・チー《人民に永遠の春をもう一度》(1975年)など、今回紹介された作品はいずれも1960年代から1970年代にかけて、ベトナム戦争に揺れる激動の時代に当時のベトナム民主共和国(北ベトナム)で制作されたものです。


グエン・ファン・チャン《籐を編む》1960年

ファム・ヴィエット・ホン・ラム
《ベトナム化戦争の悲劇(ベトナム対ベトナム)》1972年

グエン・ニ・ザオ《ディエンビエンフーの勝利をもう一度》1972年

ファム・ミン・チー《人民に永遠の春をもう一度》1975年

ちなみに本記事の一週間前に掲載された前編「ベトナム戦争のころ(上)」では、同時代のアメリカの現代美術、すなわち1950年代から60年代にかけてニューヨークで隆盛を極めたポップ・アートが取り上げられています。戦争の渦中でしのぎを削っていたベトナムとアメリカ。両者のコンテクストを掘り下げて、当時のそれぞれの美術を再考する企画というわけです。


さて、当館所蔵作品の特集に戻りますが、農村の女性たちが籠を編む穏やかな風景を描いたグエン・ファン・チャンの絹絵と、戦意高揚を明確に意図した力強いプロパガンダポスターが、同時代の美術として並んでいるのは一見奇妙に思えるかもしれません。

しかし、当時ベトナム民主共和国(北ベトナム)を率いていたベトナム共産党は、美術作品において描かれるべき主題は「労働者・農民・兵士」であるとして、芸術家たちにその方針に沿った制作を要請しました。一方グエン・ファン・チャンは、フランス植民地統治下であった学生時代から一貫して穏やかな農村の暮らしを描き続けてきた画家です。また、「絹絵」はそもそもベトナム近代において「創られた伝統」として誕生した絵画ジャンルであり、誕生以来常に「ベトナムらしさ」と結びつけられてきました。すなわち、ファン・チャンの《籐を編む》においては、絹絵という東洋的な素材、そして農村の日常に美を見いだす画家の姿勢が、当時の政権が目指した国家の理想的イメージと合致するものだったのです。

一方、戦争ポスターについては、「プロパガンダポスターなんてどれも似たようなものだろう」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。たしかに、迅速に大量のポスターを制作し続けることが要求される状況下では、同じ構図やモチーフを繰り返し用いることも多々あります。しかし、同じ民族同士が殺しあう悲しみを描いたファム・ヴィエット・ホン・ラム《ベトナム化戦争の悲劇(ベトナム対ベトナム)》には、戦意高揚だけではない、おそらくは画家個人の戦争に対する葛藤の念を見いだすことができますし、グエン・ニ・ザオ《ディエンビエンフーの勝利をもう一度》の陰影表現には、学生も多く動員されたポスター制作の現場で、技術を磨いていった若き画家の試行錯誤の跡が窺えます。大量生産といえども、1970年代初頭まで手描きでの制作が中心だったポスター制作の現場には、個々の画家たちの努力や創意工夫の痕跡が残っているのです。


著作権の関係上、記事本文や紙面の画像はこちらに載せることができませんが、見開き・カラー図版でたっぷりと特集していただいているので、もし興味を持っていただけましたら、今からでもぜひ図書館等で記事をチェックしていただけると嬉しいです!(学芸員K